アサヒの言葉に気持ちを昂らせたのは敵も同じだった。
戦いは弱い者を痛めつけることが楽しいのではなく、向かってくる者と戦うことこそが楽しいのだと。
無意識ながらその顔はどこか嬉しそうに笑っていた。
「おもしれーお前からあの世に送ってやるよ!」
これまでにない速さでアサヒに迫るギール。
その速さを気にする素振りを一切見せず、剣道の構えで正対した。
気負いも恐怖もない。
ただ向かってくる相手のことを見ている。
剣を振り上げながら叫び、その距離はお互いの間合いにはいった。
「じゃーな」
振り下ろされる剣を見ても動けないミアには叫ぶことしかできない。
「アサヒー!!」
ミアの声に呼応するかのように力強くアサヒの目が光る。
決着は一瞬だった。
振り下ろされた剣が肩に当たりながらも剣道の胴の要領でギールの横を抜ける。
自分も攻撃を受けながらも怯むことなく、ギールに一撃を与えてみせた。
「ぐっ!」
アサヒの一撃に思わず片膝をついた。
振り返り自分の横を切り抜けていったアサヒの後ろ姿を見たギールは驚いた。
その後ろ姿は「奴」の姿と同じじゃないか。
まさか奴と何か関係があるのか…
切られた自分の血を見て思わず笑ってしまった。
「ハハハハハ」
その笑い声を聞いてアサヒは振り返りもう一度剣を強く握りしめた。
剣を握るも呼吸は荒く、もう一度同じことができるほどの力は残っていない。
もう力が…今にも倒れそうだ…
「おもしろい!少年名前は?」
ギールの突然の問いに少し驚くも力強く答える。
「アサヒだ」
その名前…どこかで聞き覚えが…
何かを考えながらアサヒに背を向けた。
「今日のところは引いてやるよ」
まだ終わってない。そう思っていた。
何かの罠か…
「待ちや…」
「ドン!!」
アサヒの声を遮るかのように大きな爆発音がした。
その爆発に驚くアサヒ、ミア、ギール。
周りで起こった爆発はアサヒの近くにもやってきた。
爆発の煙に包まれていく。
「アサヒー!」
煙に包まれて行くアサヒにミアの声だけが飛んでいく。
煙に包まれるアサヒを見るギール。
あの野郎…余計なことしやがって…
ミアは動かない体を無理やり動かし煙の中のアサヒに駆け寄る。
煙を振り払いながら進む先に倒れていた。
「アサヒ!大丈夫」
ギールに斬られた肩を抑えながらも何とか起き上がれた。
「ああ」
流れていく煙からアサヒとミアを見ながらギールは真剣な表情をしていた。
「余計な邪魔が入ったな…こんなところで死ぬなよアサヒ。そこのお嬢ちゃんもな」
またすぐに会うだろう。奴とアサヒが関係しているなら絶対にな…
それまで楽しみに待っているぞ。アサヒ!
ギールは静かに立ち去っていった。
ギール…立ち去る後ろ姿はアサヒの胸に深く刻まれる存在となった。
「くっ...」
ギールが立ち去るのを確認した途端に傷の痛みが強くなった。
「アサヒ!!」
倒れそうになるアサヒを受け止めた。
「ここから抜け出しましょ!」
ミアに肩を借りながら二人で歩き、爆煙を払いながら進んでいく。
「ミア…」
「大丈夫もう少しだから」
なんとか抜け出し座り込むミアと横たわるアサヒ。
「ミアが無事で良かった...ありがとう」
安心した顔で眠るアサヒを見ながらミアは優しく微笑んだ。
「ありがとうはこっちのセリフよ...アサヒありがとう」
見上げた空は昨日と同じ綺麗な星空だった。
ここからアサヒとミアの運命は進んでいくこととなる。